皆さんはこの本のタイトルを見てどのようにお感じになりますか?
腎臓疾患を持つ人なら、ある程度は理解できるタイトルかもしれません。かたや、健康体の人には、腎臓が寿命を決めるなんて大げさな、と思われるかもしれません。
内蔵の中ではわりと地味なイメージの腎臓ですが、老廃物をろ過して尿をつくるという大事なはたらきをしています。腎臓がないと血液中に毒素が蔓延し、我々は生きていけません。
腎臓に関する専門書は多くありますが、読みものは意外に少ないです。この本は、専門的でありながら、とてもやさしく書かれていて、遅読の私でも半日で読破できました。
読んだ感想を少しだけ紹介させていただきます。
目 次
1.腎臓と真剣に向き合った優れた知見である
著者は医学部の先生で、リンと老化現象の関係解明が研究テーマです。その仕組みについて、以下要約してみます。
”リンは骨を構成したり、エネルギーをつくり出したり、人体にとって大事な成分だが、過剰なリンは人体に有害となる。悪さをするのはリンそのものというより、カルシウムと結合した「リン酸カルシウム」。リン酸カルシウムが血液の石灰化を生じさせ、動脈硬化などのトラブルを引き起こす。血中のリン酸カルシウムを増やさないように、リンを排出するのが腎臓の役割だが、過剰なリンは腎臓に負担をかけ、結果として腎機能を衰えさせてしまう”
つまり、腎機能の低下は様々な病気や老化を引き起こすが、その原因を作っているのが体内の余分なリンである、とのことです。もちろん本の中では、事例を挙げながらもっと詳しく解説されていますが、ざっくり説明するなら以上のようになります。
腎臓の機能はよく血中の老廃物の量を指標とします。老廃物としてクレアチニンや尿素窒素を我々はよくチェックしますが、リンも大事な指標だということです。
私自身腎臓を悪くして、治療法など様々な疑問に直面しますが、腎臓の研究は思うほど進んでおらず、未解明のことも多いのが現状です。主治医に聞いても「まだよくわかっていません」が口癖で、不満を感じることがよくあります。
今後は、このような基礎的な研究が増え、「沈黙の臓器」と言われる腎臓の謎が解明されていくことを願います。
2.腎臓を大事にしようという気持ちになる
体内で多くなったリンを排除するには、薬を使う方法も考えられますが、保険適用外で現実的ではないとのこと。そうなると、食事で摂取するリンを減らすしかありません。
加工食品は、利便性を高める一方で、リンの摂りすぎをもたらします。加工肉、ラーメン、スナック菓子、ファストフードにはとくに注意が必要。どれもおいしい食べ物なので残念ですが、これらに使う食品添加物にはリン(無機リン)が多く含まれます。おいしくしたり、日持ちを良くしたり、便利さの裏にはこういう問題もあるわけですね。食べちゃいけないのではなく、食べ過ぎに注意との意味ですので、誤解のないようお願いします。
著者は、各人がリンの摂りすぎに注意し、しっかりと食事を管理するようになれば、成人8人に1人が患う慢性腎臓病の進行も抑えられると言います。ちなみに、食事によるリンとたんぱくの摂取量には相関関係がみられるため、たんぱく質の摂取制限を受けている人は、リンに対してそれほど神経質にならなくても良いとのことでした。
本の前半は科学的知見の紹介、後半はその知見に基づく食生活の指南という構成で、腎臓を傷めた人ばかりでなく、健常な方でも腎臓を大事にしよう思わせる内容でした。
3.健康寿命の延伸という社会問題にも関連する
日本人の平均寿命は、男性が約81歳、女性が約87歳で、健康寿命は、男性が約72歳、女性が約75歳です。健康寿命、つまり介護などが必要になってから、我々は9~12年を生きる計算になります。この健康寿命の延伸が最近注目されています。
著者は、リンを「老化加速物質」と定義しているので、各々がリンの摂取をしっかり管理することで、健康寿命が延びる可能性を示唆しています。
また、健康寿命を延ばすには、食事の管理だけでなく、適度な運動も大事だと付け加えています。なぜなら、リンの8割は骨に存在し、体を動かさないと骨のリンが血液に溶け出してしまい、血中のリン濃度を高めることになってしまうからです。
こうして、健康寿命ひいては実際の寿命を延ばすためには、”食事と運動が重要” というシンプルな結論にたどりつきます。
健康寿命の問題は医療経済とも直結します。この本を見つけたのが「日本経済新聞」だったのも納得できました。
4.まとめ
この本は、著者自身の研究と詳細な科学的知見に基づいてまとめられ、腎機能の重要性をあらためて認識させられる良書です。
内蔵のなかでは脇役に見られがちな腎臓ですが、腎臓はリンをコントロールする重要な器官であり、とくに老化現象においては中心的な役割を果たしているというのが著者の主張です。
腎臓とリンの関係だけが老化や寿命を決めるとは言い切れませんが、この本に書かれている内容には科学的な裏付けが用意され、信頼できる内容に思えました。
腎臓の基礎研究はあまり進んでおらず、解明されていないことが多数あります。研究の進展を願ってやみません。
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